数学

本書は,主に脳波を用いた神経科学者を志す諸君のため,脳波解析に特化した数学の入門です.

電気生理的な神経科学では,脳波という特殊な時系列データを解釈するために種々の数学的手段を用います.誹りを恐れず大雑把に,大きく,大きく分類するなればこれらは三種に分けられるでしょう.

基礎数学

まずはこれがないと始まりません.中学レベルから高校,大学レベルまで広い範囲でおさらいしておきます.実際,高校レベルとかでも計算が出来てテストで点が取れることと,実用にいかすために理解することは必ずしも同義ではないです.解析や統計を学ぶ前に,一度軽くおさらいをした方が良いはず.

信号処理

あるいは解析学.その基礎となるのが波の分解,周波数分解であり,またこの背景には偉大なオイラーの公式があります.オイラーの公式を理解すれば,一つ目の課題はほぼクリアしたと言っても良いはずです.実際,オイラーの公式と,あとは畳み込み積分させ理解していれば脳波解析に苦労することはなくなるはずです.

統計

解析的手段によって得られた脳波の特徴量を,被験者間,タスク間,時間...様々な条件で比較し,どんな条件の時にどこにどんな違いが現れるのか,その違いは大事なものなのか...そんな議論をするために必要な学習です.これがなければ,解析して得られたデータなどたいていの場合は何の役にも立たちません.あとはまぁ,脳もなにかしらの統計的学習をしているよねという議論はよくなされているし,最近だとFree Energy Principleもそうですが脳の従っているなんらかのルールを記述するような研究をかじっていくにはどうしても必要な知識になります.

その他

(怒られそう).

これらは,必ずしも全員に必要なものではないが,脳を理解するため,特に今後の脳神経科学研究においては必要になってくるであろう数学です.必要になった時に学べば良いと思いますが,やはりこうした議論を何も理解していない者とそうでない者とには今後大きく差がつくであろうし,日々勉強する事は大切であるように思います.本書は解析や統計に関する記述を優先的に補充していきますが,それ以外の数学については筆者の好みで足していこうと思います.

以上のような本書の目的に従い,文中では(特に後半),数式のみでなくこれらの計算を実際に手元のPCにやらせるためのソースコードも記載していく事とします.言語は迷いましたが,ひとまずはMATLABを使用し,必要を感じれば別途Pythonのソースコードを用意します.理由としては,筆者の所属ラボ含め神経科学の多くの研究室は脳波や脳磁,核磁気共鳴画像の解析にMATLABを使用している事,それによって公開されている論文のソースコードもMATLABで実装されている事,EEGLABなどのツールボックスも充実しているため使うのが楽である事,などがあります.

さて筆者のプロフィールですが, 脳神経科学歴1年(2018年9月), 数学歴半年のペーペーです. 数学に至っては半年前は虚数が何か分からなかったし三角関数の意味も知りませんでした.\
よって変な理解だとか知識の抜けもあると思うのでご指摘お待ちしています.\

2021/5現在は生理学研究所の学生です.